従業員のメンタルヘルス対策は、企業規模にかかわらず重要な経営課題です。
これまで、常時使用する労働者数が50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施は努力義務とされてきました。しかし、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により対象範囲が拡大され、2028年4月1日から50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されます。
なお、本記事では分かりやすさや検索ニーズを踏まえて「50人未満企業」と表現しますが、法律上の人数基準は原則として会社全体ではなく事業場単位で判断されます。複数の支店・営業所・店舗などを運営する企業では、それぞれの事業場について確認する必要があります。
これまでストレスチェックを実施していなかった小規模事業場では、「何から準備すればよいのか」「産業医がいない場合はどうするのか」「個人情報をどのように扱えばよいのか」と戸惑うケースも考えられます。
しかし今回の義務化を、単に法定業務が一つ増えると考えるだけでは十分ではありません。
小規模な組織では、一人の長期休職や離職によって業務の再配分が必要となり、周囲の従業員や管理職へ負担が集中する場合があります。
そのため重要なのは、不調者を「発見する」ためにストレスチェックを行うのではなく、従業員自身がストレス状態に気づき、必要な相談や支援につながり、さらに職場環境上の課題があれば改善できる仕組みをつくることです。
ストレスチェックは、そのための一つの手段です。
ストレスチェックを実施する
→本人へ結果を通知する
→必要な人が医師による面接指導等につながる
→集団分析を活用する
→職場環境を改善する
→翌年度以降も継続して確認する
という流れまで設計することで、年1回の法令対応だけではないメンタルヘルス対策につなげやすくなります。
本記事では、50人未満の事業場が2028年4月1日の義務化に向けて準備すべきことと、限られた人員でも無理なく制度を運用するためのポイントを解説します。
50人未満企業にもストレスチェック義務化が拡大へ
これまでストレスチェック制度は、常時50人以上の労働者を使用する事業場で実施が義務付けられ、50人未満の事業場では努力義務とされてきました。
しかし、2025年5月に公布された改正労働安全衛生法によって規模要件が見直され、2028年4月1日から労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施義務が拡大されます。
現在は「義務化されるかもしれない」「施行日が決まるまで待つ」という段階ではありません。2028年4月1日から適切に運用できるよう、具体的な準備を進める段階です。
例えば、
- 誰が社内の実務を担当するか
- どの実施者・外部機関を利用するか
- 個人結果をどのように管理するか
- 面接指導の申出があった場合にどの医師へつなぐか
- 集団分析をどのように職場環境改善へ生かすか
などを事前に整理します。
特に小規模事業場では、労働者のプライバシーを適切に保護する観点から、厚生労働省は原則としてストレスチェックを外部機関へ委託することを推奨しています。
制度導入で重要なのは、単に受検システムを用意することではありません。結果通知、面接指導、健康相談、職場環境改善まで含めた運用フローを作ることです。
義務化を「ストレスチェックシステムを導入するプロジェクト」と捉えるのではなく、自社のメンタルヘルス対策を整理・標準化する機会として活用するとよいでしょう。
なぜ50人未満企業にも義務化されるのか
中小企業におけるメンタルヘルス対策の強化が求められている
50人未満の事業場では、産業医や衛生管理者の選任義務がなく、人事・総務担当者が他の業務を兼任している場合もあります。そのため、これまでストレスチェックを実施していない事業場も少なくありませんでした。
しかし、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ必要性は、事業場の規模によって変わるものではありません。
特に小規模な組織では、一人が長期休職すると、残った従業員へ業務が集中し、管理職を含む周囲の負担が増加する可能性があります。
その結果、残業の増加や職場環境の悪化、さらなる健康問題などにつながる場合もあるため、問題が深刻化してから対応するだけでは十分ではありません。
今回の義務化の中心的な目的は、こうした経営上の損失を直接防ぐことではなく、事業場規模にかかわらず、労働者自身のストレスへの気づきを促し、メンタルヘルス不調を未然に防止できる環境を整えることにあります。
企業としては、その制度を適切に活用することで、従業員の健康確保と安定した職場運営の両方につなげていくことが重要です。
50人未満企業が直面する主な課題
人事担当者の負担が大きい
小規模企業では、人事・総務・給与計算・労務管理・採用などを一人または少人数で担当しているケースもあります。
そこへストレスチェックの実施準備、従業員への周知、受検管理、外部委託先との調整、面接指導への対応などが加われば、担当者の負担が増える可能性があります。
だからこそ、すべてを自社内で処理しようとしないことが重要です。
特に50人未満の事業場では、プライバシー保護の観点から外部機関への委託が推奨されています。実施者の確保、調査票の配布・回収、個人結果の通知・保存など、専門性や情報管理が必要な部分を外部へ委託する方法があります。
一方、企業側では、制度全体の方針を決め、従業員への周知や外部機関との連絡、必要な職場環境改善などを進めます。
外部委託してもストレスチェック制度を実施する責任は事業者にあるため、「すべて委託先へ任せる」のではなく、自社と委託先の役割分担を明確にしておくことが重要です。
産業医がいない
労働者数50人未満の事業場では、原則として産業医の選任義務はありません。
一方、ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、実施者が医師による面接指導を必要と判断した労働者から申出があった場合には、事業者は医師による面接指導を実施する必要があります。
そのため、ストレスチェックを実施する前に、面接指導の申出があった際にどの医師へ依頼するかを決めておくことが重要です。
法定の面接指導を実施する医師は、必ずしも自社の産業医である必要はありません。
例えば、外部サービスの医師を利用するほか、要件を満たす小規模事業場であれば、地域産業保健センターが提供する高ストレス者等への医師の面接指導を利用できる場合もあります。
また、メンタルヘルス不調者への健康相談や休職・復職支援まで継続的に対応するのであれば、産業医などの専門家へ相談できる体制を整えておく方法もあります。
「産業医を選任しているか」だけでなく、必要なときに医学的・産業保健的な支援へアクセスできるかという視点で体制を考えることが重要です。
制度運用のノウハウがない
これまでストレスチェックを実施していなかった事業場では、「何から始めればよいか分からない」と感じても不自然ではありません。
初年度は、
- 実施時期
- 社内担当者
- 対象者
- 従業員への周知方法
- 実施者・実施事務従事者
- 受検方法
- 個人結果の管理方法
- 医師による面接指導への申出方法
- 集団分析
- 職場環境改善
などを整理します。
特に小規模事業場では、衛生委員会の設置義務がない場合もあるため、厚生労働省の小規模事業場向けマニュアルやモデル規程を活用しながら、自社の規模に合ったルールを作るとよいでしょう。
初年度に再利用できる運用ルールを整えておけば、翌年度以降の負担を軽減しやすくなります。
義務化に向けて企業が準備すべき対応ロードマップ
STEP1 現在の体制を確認する
最初に、自社の各事業場について常時使用する労働者数と現在の健康管理体制を確認します。
例えば、
- 各事業場の労働者数
- 健康管理や労務管理の担当者
- 現在の相談窓口
- メンタルヘルス不調者への対応方法
- 長時間労働者への対応体制
などを整理します。
さらに、自社のメンタルヘルス対策を検討する材料として、個人情報の取扱いに十分配慮しながら、休職・欠勤・長時間労働などの組織的な傾向を把握することも有効です。
ここで重要なのは、「誰がすべての作業を行うか」を決めることではありません。
誰が制度全体の社内窓口となり、外部機関や専門職との調整を行うかを明確にすることが重要です。
STEP2 実施方法を決定する
ストレスチェックは、要件を満たす実施者・実施体制を確保したうえで、自社内で実施する方法と外部機関へ委託する方法があります。
特に50人未満の事業場については、労働者のプライバシーを適切に保護する観点から、原則として外部機関への委託が推奨されています。
外部サービスを比較する場合には、価格だけではなく、
- 実施者の体制
- 受検管理
- 本人への結果通知
- 個人情報の保存・管理
- 高ストレス者の選定方法
- 医師による面接指導への対応
- 集団分析
- 問い合わせ対応
などを確認します。
特に「ストレスチェック後に面接指導の対象者が申出をした場合、どこまで対応できるのか」を確認しておくことが重要です。
受検単価だけではなく、制度全体を適切に運用するために必要な業務と費用で比較するとよいでしょう。
STEP3 面談対応体制を整備する
ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、実施者から医師による面接指導が必要と判断された労働者が申出をした場合に備えて、医師による面接指導の体制を準備します。
例えば、
本人から面接指導の申出
→事業者が医師へ面接指導を依頼
→医師が心身の状態や勤務状況を確認
→事業者が医師から意見を聴取
→必要に応じて就業上の措置を検討・実施
という流れです。
ここで重要なのは、産業医や面接指導医が就業措置を決定するのではなく、医師が医学的意見を示し、事業者がその意見を勘案して必要な措置を判断するという役割分担です。
外部サービスを利用する場合は、面接指導までの調整方法、オンライン対応の有無、医師の意見書の形式、企業側の担当者との連携方法などを確認しておきましょう。
また、労働者が面接指導を申し出やすいよう、申出方法や情報の取扱いについて事前に周知しておくことも重要です。
STEP4 集団分析を活用する
ストレスチェック制度の主な目的は、受検率を高めることそのものではありません。
従業員自身にストレスへの気づきを促し、必要な支援へつなげるとともに、集団分析などを活用してストレスの原因となる職場環境の改善につなげることが重要です。
なお、集団分析は法律上の努力義務であり、ストレスチェックそのものの実施義務とは区別して考える必要があります。
また、2027年4月1日からは、集団分析について特定の個人を識別できない方法で実施することが明確に定められます。
集団分析では、仕事の量的負担、仕事のコントロール、上司や同僚からの支援など、職場ごとの傾向を把握する手掛かりが得られます。
例えば、ある部署で仕事の負担が高い傾向が確認された場合には、従業員個人へのセルフケアだけで解決しようとせず、業務量、人員配置、役割分担、管理職による支援などを確認します。
集団分析の数字を「原因」と決めつけず、職場環境を確認するための手掛かりとして活用することが重要です。
ストレスチェック運用を成功させた企業の共通点
ストレスチェックを有効に活用するためには、法定の実施だけで終わらせず、結果から必要な取組を検討することが重要です。
例えば、
- 面接指導を申し出やすい環境を整える
- 管理職へメンタルヘルス教育を行う
- 集団分析を職場環境改善へ活用する
- 相談窓口を整備する
などの方法があります。
ただし、施策を数多く導入すること自体が目的ではありません。
重要なのは、自社の課題を確認し、それに対応する施策を選択することです。
例えば、集団分析と勤怠状況の双方から業務負荷の高さが考えられるのであれば、セルフケア研修だけではなく、業務量や人員配置を見直す必要があるかもしれません。
上司からの支援が低い傾向が続いているのであれば、管理職研修や相談体制の改善を検討します。
データを確認する
→原因を仮説化する
→職場を確認する
→対策を実施する
→その後の変化を確認する
というサイクルで進めることで、ストレスチェックを継続的な職場環境改善へ活用しやすくなります。
50人未満企業こそ産業医クラウドの活用がおすすめな理由
50人未満の事業場では、大企業のように産業医、産業保健師、専任人事担当者などをすべて社内で確保することが難しい場合があります。
そこで、自社に必要な産業保健機能を外部サービスで補う方法があります。
産業医クラウドでは、産業医の選任支援や従業員面談、産業保健師、ストレスチェック、休職・復職支援、職場巡視、衛生委員会運営支援、健康経営支援など、企業の産業保健体制づくりを支援しています。
50人未満の事業場で重要なのは、ストレスチェックだけを単独で導入し、その後の支援体制がない状態を避けることです。
例えば、ストレスチェックで高ストレス者として選定され、実施者が面接指導を必要と認めた労働者から申出があった場合には、医師による面接指導へつなぎます。
面接指導後は、必要に応じて医師が就業上の措置について意見を示し、企業がその意見を踏まえて対応を検討します。
また、メンタルヘルス不調による休職が必要となった場合には休職支援、職場復帰時には主治医の情報や本人の状態、勤務内容などを踏まえた産業医等の医学的意見を活用し、企業が復職可否や就業条件を検討します。
ストレスチェック、医師面談、休職・復職支援などを必要に応じて連携させられる体制を整えておけば、人事担当者だけで医学的な問題を判断する必要がなくなります。
法定の産業医選任義務がない50人未満の事業場であっても、必要なときに産業保健の専門家へ相談できる体制を整えることは、選択肢の一つです。
よくあるFAQ
50人未満企業はいつから義務化されますか?
2028年4月1日から、労働者数50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施が義務化されます。
2025年の法改正時点では「公布後3年以内に政令で定める日」とされていましたが、現在は施行日まで確定しています。
そのため、施行日が決まるまで待つのではなく、2028年4月1日から適切に運用できるよう、外部委託先、実施者、個人情報管理、面接指導体制などを事前に整理しておくことが重要です。
なお、人数基準は原則として会社全体ではなく事業場単位で判断します。
産業医がいなくてもストレスチェックは実施できますか?
はい。産業医を選任していない50人未満の事業場でも、法令上の要件を満たす実施者や外部機関を活用してストレスチェックを実施できます。
ストレスチェックの実施者となれるのは医師、保健師のほか、所定の研修を修了した看護師、精神保健福祉士、公認心理師、歯科医師などです。
また、高ストレス者として選定され、実施者が必要と認めた労働者から申出があった場合には、事業者は医師による面接指導を行う必要があります。
そのため、ストレスチェック実施時点から、面接指導が必要になった際の医師との連携方法まで決めておくことが重要です。
50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センターの支援を利用できる場合もあります。
費用はどのくらいかかりますか?
費用は、利用するサービス、対象人数、実施方法、オプションの内容などによって異なります。
比較する際には、1人当たりの受検料金だけではなく、
- 初期費用
- 受検管理
- 結果通知・保存
- 医師による面接指導
- 集団分析
- 問い合わせ対応
- 追加料金
などを含めて確認するとよいでしょう。
また、人事担当者が社内で行わなければならない作業量も重要です。
単価だけでなく、法令に沿った制度運用を行うための総コストと社内工数で比較することがポイントです。
ストレスチェック結果は会社が見てもよいですか?
ストレスチェックの個人結果は、原則として実施者から従業員本人へ直接通知されます。
本人の同意なく、個人のストレスチェック結果を事業者へ提供することは禁止されています。
また、結果提供に同意しないことや、ストレスチェックを受けないことなどを理由として、不利益な取扱いを行うことも認められていません。
そのため、導入時には、
誰が個人結果を見るのか。
企業へどの情報が共有されるのか。
結果はどこへ保存されるのか。
などを従業員へ分かりやすく説明することが重要です。
特に小規模事業場では、本人が特定されやすい環境であることも考慮し、プライバシー保護を重視した運用を行う必要があります。
実施しない場合はどうなりますか?
2028年4月1日以降、50人未満の事業場についてもストレスチェックの実施は法律上の義務となるため、対象事業場が実施しない状態は法令に沿った運用とはいえません。
ただし、ストレスチェックを実施しなかったこと自体と、労働基準監督署への報告義務違反は区別する必要があります。
現在、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署へ報告する義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。50人未満の事業場には、この報告義務は課されていません。
そのため「50人未満の事業場がストレスチェックを実施しなければ、直ちに報告義務違反の罰金が科される」といった説明は正確ではありません。
一方で、義務化後は法令に沿って制度を実施できるよう、施行前から準備を進めておく必要があります。
まとめ|義務化前の今こそ準備を始めるタイミング
2028年4月1日から、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。
今回の改正は、単に新しい法定業務が追加されるだけではありません。
これまでメンタルヘルス対策の仕組みを十分に整備していなかった小規模事業場にとって、
- 従業員へどのように制度を周知するのか。
- 誰がストレスチェックを実施するのか。
- 健康情報をどのように守るのか。
- 面接指導の申出があった場合にどの医師へつなぐのか。
- 職場環境上の課題をどのように改善するのか。
を整理する機会でもあります。
ストレスチェック制度の主な目的は、メンタルヘルス不調者を会社が発見することではありません。
従業員自身がストレスへの気づきを得て、必要な支援につながり、ストレスの原因となる職場環境の改善へつなげることで、メンタルヘルス不調を未然に防止することです。
そのため、
ストレスチェック
→本人への結果通知
→必要に応じた医師による面接指導
→医師の意見を踏まえた就業上の措置
→集団分析
→職場環境改善
→次年度の確認
という流れを事前に整理しておくと、制度を継続的に運用しやすくなります。
特に50人未満の事業場では、プライバシー保護の観点から外部機関への委託が推奨されています。すべてを人事担当者が抱えるのではなく、専門性や情報管理が求められる業務は外部サービスを活用し、企業側は社内調整や必要な職場環境改善に取り組む方法があります。
また、法定の産業医選任義務がない場合でも、医師による面接指導やメンタルヘルス不調者への相談、休職・復職支援など、必要な場面で専門家へ相談できる体制を整えておくことが重要です。
2028年4月1日に慌てて制度を導入するのではなく、それまでに自社で継続して運用できる仕組みを整える。
その準備を今から進めることが、義務化後も無理なくストレスチェック制度を運用するためのポイントです。
産業医紹介サービスを検討している企業様必見!