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働き盛りの40代が今一番危ない!
40代のストレス因子は「相談できない環境」にあった

働き盛りの40代が今一番危ない! 40代のストレス因子は「相談できない環境」にあった

働き盛りといわれる40代。組織の中でも重要なポジションにつく人材も増え、企業にとってもなくてはならない存在です。その一方で40代からは死亡リスクも上がり、健康にもそれまで以上に気をつける必要のある年齢に突入します。

「40代が健康で長く働ける組織づくりに必要なことはなにか」を産業医として活躍している山岸医師に語っていただきました。

自殺率があがる40代、若い世代と違うストレス因子は?

刀禰「やはり、若い社員と40代以上の社員に起こる労務リスクって少し見るポイントがちがってくるのかなと思うのですがいかがですか」

山岸医師「そうですね。40代以降は生活習慣病の増加がまず挙げられます。呼吸器内科医的な観点ですと、たばこを長年吸っている方に見られるCOPDといった喫煙習慣が要因となる疾患です。40代は、5大疾病のリスクもあがり身体的な疾患リスクが上がる年齢ではあります。

そういう意味で健診は大切ですよね。40代だとまだまだ身体は元気と思っている方も多いため、医療機関への受診が遅れがちです。ですので、検診、再検診をきちんと行っていただきたいとは思います。企業側も自己責任だよとせずに、検診を手厚くするなどの福利厚生があった方がいいかとは思います。また、デスクワークをしている方はストレスが多い傾向にあります。企業内で運動を取り入れるなど健康面での管理を企業側が積極的に行っていく方がよいと思っています。

身体的な面も気を付ける必要がありますが、その一方で実はうつ病などのメンタル疾患も40代に一つのピークが見られると私は感じています。」

山岸医師

刀禰「40代にもメンタル疾患の山がありそうということですね。どういった要因がメンタル疾患リスクを上げていると考えていますか?また、産業医の立場から40代に関わるときのラインケア、セルフケア観点での注意ポイントってありますか」

山岸医師「40代の方になると組織の中でも管理職に就く方も多く、その分責任も重くなることもあってストレスがたまりやすい年齢といわれています。若い方は労働時間の長さや職務内容の不適合、ノルマの達成などが原因となる適応障害として現れますが、40代の方の場合、若い方とは違った要因でメンタル疾患を発症するケースが見られます。

実はその要因はプライベートに関することなのです。面談していく中で、面談者と少し踏み込んだお話をさせていただくと、奥様との関係がうまくいかないとか、子供のことで悩んでいるなどといった仕事外の部分で問題をかかえていらっしゃるケースが割と見受けられます。」

刀禰「確かにいろいろプライベートで起こる年代でもありますよね。ご両親の介護もこの時期が始まる人もいますし。介護ストレスは大きな問題ですよね」

山岸医師「介護の問題は確かにありますよね。お金があればすべて外注にという発想ができるのですが、実際は時間や金銭的な部分で制限があり、なかなか思うようにできないのも事実です。

そういった背景の中で我々産業医の職務として重要な要素は、仕事は順調だからメンタル疾患にはならないだろうということではなく、プライベートに対するヒヤリングも加味した面談ではないでしょうか。生活習慣病というのは身体的なことではなく精神的なことも含まれると思っています。生活という面で見ると会社の中の生活だけではなくプライベートな背景も見ていく必要がある年代だと思います。

ストレスチェックの盲点はそのあたりにあると思います。ストレスチェックは職場のストレスに重点が置かれているという点です。高ストレス者なのに職場でのストレス項目にチェックがあまり見られないといったところですね。職場以外にもストレス因子がないかをしっかり見ていく必要はあります。

また、高ストレス者の対応はもちろんのことですが、仮にストレスチェックで高ストレスの評価がつかない場合でも面談を希望される方は何かしらのメンタル不調をお持ちの場合があるのでプライベートな部分も踏まえてヒヤリングを行っていく必要はありますね。」

刀禰「やはりプライベートまで踏み込むという部分で産業医のコミュニケーションの質も問われていきますよね」

山岸医師「産業医はコミュニケーション力ありきだと思います。きちんと話を聞いてあげるということはとても大切なことですよね。特に40代以降の方は話を聞いてもらうという機会が少なくなり、相談はされるけれど誰にも相談ができないという方も多くみられる年代です。しかも40代になるとなんとなく悩みを相談するのは気恥ずかしいといった自己防御の姿勢がみられます。悩みを人に伝えることを嫌がる方も一定数います。」

隠れ高ストレス者を見逃さない為にできることは

刀禰
刀禰「ストレスチェックの中でもやはり高ストレス者から面談がないというのが企業にとっても対応に困る部分ですし、そういった面談ハードルの高い高ストレス者と接触をとる良い方法ってないですかね」

山岸医師「相談窓口のようなものを設置して普段から社員の方と接触を図る機会を増やすというのがまずは有効かなとは思います。電話で相談できるとかですね。相談のハードルを下げることで接触回数が増えると高ストレス者を見逃しづらくなるかもしれません。産業医も常に常駐しているわけではないこともそうですし、労働者寄りの立場に立っていると説明してもやはり産業医は事業者よりの立場だとみられる方も多いですし。なにか相談して上司になにか言われたら嫌だなとか波風たてたくないのにという人も多いと思っています。また、産業医だけではなく外部の健康相談ツールなどを利用して社員の健康状態を把握するということもひとつの手かもしれません」

刀禰「なるほど。確かに相談窓口は良いですね。産業医が常駐している企業が少ない中で高ストレス者を見逃さないように対応がされている企業はまだまだ少ないですし。他にも何かあったりしますか?」

山岸医師「高ストレス者を見逃さないという部分でいうと産業医と面談をうけてくださる方に対する産業医の質が大切だろうなと思います。ちょっと体調が悪いという訴えを「気のせい」で済ましては改善に至らないですよね」

刀禰「一定数いる産業医の層ですね(笑)。今後産業医に求められるものって何だと思いますか?」

山岸医師「産業医はある程度ジェネラリストである必要があるかなと。内科医だから、外科医だから精神疾患はわかりません、では産業医はつとまらないですし、またそういった自分の専門分野外に対する知識を広める努力も必要だと思っています。後はトーク力ですかね。先ほど述べた「気のせいでしょ」で終わる医師はいずれ淘汰されていくとは思うんですけどね。

ここ10年~15年くらいの間で医師のスキルの取得も少し変わり、若手の医学生の授業の中では患者との向き合い方を学ぶ講義や試験があったりします。試験の中では実際患者さんと面談するんですよ。会話の技術も教わるようになりました。どの配置に患者さんが座って医師が座ってみたいなことを学ぶんですよね。

産業医の現場で電子カルテが導入されていることはあまりありませんが、一般臨床の場では電子カルテ導入が進んできていて、ずっとディスプレイを見ているという医師もいるように聞いていますが、人の話を聞くという部分ではいかがなものかと思いますよね。」

刀禰「確かに。悩みを打ち明けにくい産業医は産業医としての職務放棄。これから少子高齢化が進み、企業の高齢化が進んでいく中で40代以降の層が健康に働ける組織づくりは大切なのではないかなと。その中でいかに相談しやすい環境づくりをしていくのか企業側も考えていく必要があります。産業医の質はその中でとても大切。相談できない産業医は弊社の産業医はいまのところいないですが、今後も産業医の需要が増えたとしても質の担保をしていく努力をしたいと思います」