【第7回】医師と患者の適度な関係性

医師と患者の関係性
42歳のカリスマ精神科医Y氏が、18歳の女性患者Aさんを性奴隷としてもてあそんだという記事が、週刊誌に掲載されました。東大医学部出身のこの医師は、すでに70冊近い漫画や著書を書いて有名であり、山手線の駅近くに何か所も精神科関係のクリニックを経営しています。
週刊誌によると、AさんはYの診療所の患者だったが、彼のすばらしさに憧れて何度かメールをやり取りしていた。彼女が18歳の誕生日を迎えたとき、彼から呼び出され、診療所にあるオーナーの私室で性的な関係をもつようになったといいます。だがやがて、彼が別に何人もの女性と関係を持っていることを知り、そのことを詰問したところ、ふっつりと連絡が途絶えてしまいました。
その後彼女の精神状態は悪化し、摂食障害も起こって激やせし、「うつ状態」がひどく自殺を試みるように。追いすがるように何度か連絡を試しているうち、それがストーカー行為だとして警察に通報され、悲惨な状態になってしまったようです。現在、弁護士同士による話し合いの段階だと伝えれました。
翌週の週刊誌にはさらに追いかけるように彼の記事が載っており、Y氏は独身であると偽って婚活パーティーに出席し、そこで知り合った何人かの女性とも関係を持ったという。精神科医の片田珠美氏はY氏を「性欲亢進症」と診断している。この際そんな診断よりもむしろ彼の道徳性の方を問題するべきだと思います。
医者と患者との恋愛はままありうることだが、一応それはタブー。しかしとくにこの際問題なのは、心理的な依存と非依存の関係を利用して、Y氏が彼女を性の慰みに利用し、彼女の人格を大切にしないことのように思われるのです。都合が悪くなったら、今度はストーカー扱いというのでは、せっかくの愛情を裏切られて悲しくもなります。心の専門家だったら、もう少し人間らしく扱うべきでなかったのでしょうか。
この問題について知り合いの弁護士さんに聞いてみたところ、刑事事件としては取り上げ難いという意見でした。選挙権が与えられる満18歳を待ち構えて性関係を持ったことは、自由意志による性関係だと言い逃れる方策まで考えていたようです。甘い言葉をささやきいろいろな約束をしたと責められても、最近は嘘つきがはやりです。医師としてのモラルの問題に帰着させざるを得ず、結局は民事訴訟による何万円かの保障という形に決着させる以外にはありません。
刑事訴訟にすると脅かして民事で有利な結果を得るという常套手段も、この際は無理かも知れません。彼女が騒いだのでクリニックの評判が落ちて、患者が減ったという口実で、賠償金額を減額するというカウンターパンチさえ相手は用意しているかも知れません。
ところで私には、週刊誌の記事以外に若干の情報があり、それを少しご披露します。同窓会名簿によると、彼は42歳でなく、さらに若い41歳。また彼のクリニックに一時勤務していたドクターから聞いた話だが、そこでは医者でなくてケースワーカーが処方箋を書き、医者はそれにサインするだけだったといいます。
ことの真偽についての断定的な発言は控えたいが、おそらく彼のクリニックで働いていた医者は、精神科の臨床については素人ばかりで、病院と関係が深い薬局が、大量に低価格で仕入れた薬だけを処方するよう強制されたのだと思われます。薬の薬価基準と現実に仕入れられた値段の差を潜在薬価と呼ぶが、その差益で儲けた薬局からY先生がリベートをもらっているのではないでしょうか。
またその先生によると、彼のクリニックでは同じ患者がまた外来に来るような診療をすると、ポイントが与えられ、次の月の給料に反映されるのだそうです。
それからもう一つ、実は私が彼の診療所で働くことを断られたことをご報告しておきます。実は昨年末以来、おそらく老齢という理由でいくつかの顧問先を退職しました。とくに生活上追い詰められたわけでもないが、自分ではまだ元気なつもりなので、いくつかの就職先をネットで探したのであった。たまたま立地条件も給料もよかったY先生の診療所に応募したところ、採用面接のための日時を指定されました。そこで彼の立会いの下、秘書もしているらしいケースワーカーを、患者と思って模擬的な面接をすることになりました。
自分では腕がいいつもりだったが、Y先生から、ここのクリニックには向かないという通知があり、採用を拒否されたのです。その決定には不満であったが、オーナーが拒否するなら仕方がないかと引き下がったのです。しかし今にして思えば、私に来られては彼のサンクチュアリーが乱され、乱診乱療がやりにくくなると思ったのでしょう。また報道されたような風紀紊乱の後輩のところなどに勤めなくてよかったことになる。薬を大量に投与されて状態が悪くなり、クリニックから方法のていで逃げ出してきたという患者が多いので有名なのです。
彼は精神科関係の診療所を山手線の主要駅のそばに四、五か所所有し、また美容皮膚科も二か所経営しているらしい。そもそも大儲けしている先生とは一緒に働かないというのが、私のモットーなのです。