【第2回】長時間労働が行われる会社に見られる課題とは
職場環境の課題に気づけるかがポイント
メンタルなケースが出たとき、本人の能力が水準以下であるための不適応と、職場環境がひどいための両方を考えなければなりません。ただ同じようなメンタル疾患による休職や退職といったケースが何度も起こっている場合には、人事は環境が原因であることも想定し、対策を立てる必要があります。
ただある種の企業文化の下では、たとえ原因が分かっていても、つい根本的な問題の解決は先送りされがちです。時に、それが事件化して、社会から非難されるようなことがあって、初めて問題が共通なものとして意識されるのです。
例えばある広告代理店(D社とします)では、不規則な仕事のやり方が、客先ともども常態になっているため、長時間労働がむしろ常識になっていました。最近、女子新入社員が「うつ状態」になって自殺したことがニュースになったため、それに対するバッシングが起きたのです。
もっともD社の祖である社長のY氏による「社訓」は有名で、そのための労働強化はむしろ常識すらありました。もっともそこには、合理的かつ積極的に頑張るようにすすめられてはいたが、自分の心身をいためるまで、いたずらに長時間労働をしろとは書かれていなかったはずです。
ある社員から聞いたことです。D社の会社内には診療所があって精神科医が勤務しているらしいのですが、仕事に適応できず、うつ病やパニック障害になり診療所通いをする社員があまりに大勢いるため、社内の診療所の予約が取れないという状況。従って早く診てもらうためには、外部の診療所に行くようすすめられているとのこと。
なぜ産業医が形骸化されてしまうのか
本来、産業医とは、もっと勤務時間を短くするよう、仕事のやり方について人事当局を指導すべきです。しかしそういった企業文化に逆らうようなアドバイスを仮に産業医がしたとしても、会社側はなかなか動き出せないというジレンマがあります。今回マスコミが騒ぎ始め、労基署から厳しく指摘されたことによって、やっと長時間残業を少なくするような姿勢になったようです。しかし労働環境の変化に、営業マンがうまく順応できるかどうかがこれからの問題となります
私が担当したZ省の長時間労働もなかなか是正困難でした。いつか帰国して初めてついた管理職ポストで、月間150時間の長時間労働のあげく自殺した職員について、企業カウンセラーであった私が文句を言ったところ、そんなのはむしろ少ない方で、予算時期には月に300時間を超える残業も行われていると言われてしまったことも。
また少し昔の話になりますが、K省の職場環境もあまり褒められたものではありませんでした。問題患者が発生すると、つてを頼りに有名教授に診察を依頼するのが常で、省内診療所の人的配置には極めて不備でした。その有名教授は多忙なため、部下に診療を下請けさせるのだが、その患者がどのように改善したか、劣悪だったはずの職場環境に是正措置が取られたかなどについてのフォローはなかったように見受けられます。
このたびストレスチェックが採用されたことは、ケースを拾い上げるという点で評価できます。しかし問題はそれをどのように専門家につなげ診療をおこなってゆくか、或いは職場環境の修復がどのようになされるか、フォロー体制をどうするかまで考える必要があります。
どんな上司がストレスになるか
上司として望ましいのは、大らかで神経質でなく、仕事の状況の大筋が把握でき、実際面でどの点がよく分からないかについての指導をしてくれる人ですが、なかなかそのような上司には恵まれない組織が多々あります。キャリアパスの関係上、あまり仕事が出来ない人の下で働かねばならないことが起こりがちです。
仕事が出来ないくせに、下からあげた案を全否定し、また逆にその上の上司がその案に賛成だったりすると、それをあたかも自分の案であったように言いつくろうこともままある出来事なのです。
そういったとき、それを社内で批判しても、たいていは無駄となります。よほどひどければクーデター的に人事に訴えますが、それが上手くゆく場合はあまりなく、次に来るだろう人事異動を待つか否かが悩ましいところです。
さらにヒステリカルな女性上司との付き合い方も最近多くの企業に共通する問題とも言えます。

東京生まれ。東京大学医学部医学科卒業、東大病院精神神経科に入局。1960年東大大学院生物系研究科博士課程修了。医学博士。2年間のパリ大学留学後、東大病院医局長、1966年虎の門病院勤務。初代精神科部長。川端康成の主治医を務めた。1990年大蔵省診療所長。財務省診療所カウンセラー