「うちの会社で活躍できる」
人材を厳選
刀禰氏丹下社長には、経営者の先輩としていつも良い刺激と気づきをいただいています。特に、御社のKPI開示をはじめとする情報公開はとても参考になっています。今回は人的資本経営という観点から、連結従業員数9000人の規模を持つSHIFT様の人への投資方針や、育成の取り組みなどについてお話を聞かせていただきたいと思います。
丹下氏実は、SHIFTが従業員教育に本腰を入れ始めたのはつい3、4年ほど前のことです。それまでも、トップラインを伸ばすために、優秀な人材を採用してきましたが、教育にはそれほど注力はしておらず、かけていた費用はおそらく一人当たり700円/月くらいで決して多くはありませんでした。

とにかく楽しく仕事をして、
結果を出してもらう。
やる気のある人へのサポートは
惜しみません
丹下氏
刀禰氏それは意外ですね。
丹下氏私は「従業員教育は会社が実施すべきことなのか」ということを自問自答しています。本来教育とは、その人自身が学校や家庭、社会での生活から学んでくるべきものであると考えているからです。
そもそもSHIFTでは、採用の時点で「CAT検定」という検定試験を活用し、応募者の業務への素養や地頭などを測定することで細かくフィルタリングをかけ、その方が入社後に活躍し、成長できる人かを徹底的に見極めています。
ちなみに、この検定試験の合格率は約6%であり、現在、SHIFTには年間4万人以上の方が応募いただきますが、入社されるのは2500人ほどです。
菅原氏SHIFTはほとんどが中途採用で、応募してくれた方全員に対し、この「CAT検定」を実施いただきます。CAT検定は、SHIFTが独自開発したテストエンジニアの「素養」を評価するための検定試験です。入社時点でのITの知識や経験の有無よりも、その人が持っている業務に対する素養や資質が高いほうがパフォーマンスを発揮するということが分かっており、現在の事業開始当初より運用しています。この検定に高い水準で合格できる人材であれば、前職が非ITだとしても積極的に採用しますし、その方たちは入社後も高い確率で活躍してくれています。
今では、テスト以外の業務に対する様々な検定が用意されていて、これらは入社後の最適なキャリアを把握するためのツールとして活用しています。
丹下氏さらに「動画面接」も導入しています。これは応募者に許可を得たうえで面接の様子を動画で撮影させてもらうというSHIFT独自の面接手法です。撮影した面接の様子は、すぐに関係部署の責任者たちに展開され、責任者はその動画をすぐにチェックできるので、早ければ面接の当日に合否を判断することができます。
刀禰氏動画面接というのが興味深いですね。確かに一度撮影すれば、社内共有もできますし採用までの流れがスムーズになりそうです。IT人材は獲得競争が激しいので、採用の意思決定が速いほど有利です。他社でも活用したいところが多いのではないでしょうか。
丹下氏一般的に採用試験は三次面談まで行わないと判断できないと言われていますが、私はどうも納得できませんでした。そこで3、4年前に私の強い要望で動画面接をスタートしました。約1時間の面接動画をサマリーとして編集し、本人の能力やキャラクターが分かる形で社内展開します。試験では素養が分かり、動画ではどのように活躍してきたのか、人となりや、会話の行間も見て取れます。これは、私たちにとっても本人にとっても非常に有効なフィルタリングだと思っています。
菅原氏社内の様々な部門長がこの動画を見て、「このくらいの能力があれば、うちの部署で採りたい」というような“ドラフト”も即可能になるわけです。
丹下氏だから、同業他社が1カ月以上かける内定をSHIFTは3日で出すことができます。このスピード感は求職者にとってもメリットがあると思います。SHIFTとしても、ミスマッチが限りなく少なくなり、ストレスがありませんし、人材の取りこぼしもなくなります。現在、離職率は約6%台で、離職率15%が平均と言われるこの業界ではかなり低い方ではないでしょうか。
私たちはその人の能力を信じて採用しています。ですから、採用後にその人がSHIFTで活躍できない場合は、採用した我々に責任があると思っています。学歴やコミュニケーション能力だけで判断して採用し、働き始めてから「この人は能力が低くて使えない」と言うのはあり得ないのです。
明確な評価制度で
従業員のモチベーションを高める
刀禰氏最初から「うちの会社に合う人」を厳選しているので、一般的な教育にはコストをかけないということですね。でも最近は教育にも注力しているのでしょうか。
丹下氏その通りです。背景にはまず、頑張って結果を出した人に対しては給料を上げてあげたいということがあります。単価と評価基準を明確にして、努力の結果として単価があがり、それをきちんと評価されて昇給につながる仕組みを作ることでモチベーションは上がります。
そのために独自でeラーニングを活用した「トップガン」という教育プログラムを社内に展開しています。従業員がプログラムを利用して学び、その後検定試験に合格すれば、その従業員のお客様への提示単価やそれに連動して昇給できる仕組みになっています。単価が上がることで年収が短期間で200万円くらい上がる人もいます。
刀禰氏頑張れば結果が出て評価されるということは、従業員の信頼にもつながると思います。給与が上がるだけでなく、提示単価が上がることで自身の市場価値の向上を感じることができ、働く側の意欲をかきたてるカリキュラムだと感じます。
丹下氏人材に関しては「2:6:2の法則」があるとよく言われますよね。優秀な2割の従業員は個人で努力をしますが、6割の人たちに対して「自分で少し努力をすれば、確実に給料が上がり評価される」という場を作ることが重要です。それを通じて従業員全体のモチベーションを上げていくことを狙っています。現在は、従業員の約6割がトップガン教育を受講しています。
刀禰氏正社員や契約社員、アルバイトなど全従業員を対象とした表彰制度も展開しているそうですね。
丹下氏「AWARD」と呼んでいる表彰制度ですね。従業員が表彰したい従業員に投票し、得票数の多かった従業員が受賞するものです。部署ごとに開催し、それぞれの部署に複数の部門があるので、年間で500名近くの従業員が表彰されます。表彰式では盛大に祝います。褒めるところはきちんと褒めてやる気のある人にさらに火をつけるという考えです。
周囲が楽しそうに生き生きと仕事に取り組んでいるのを見ていると周囲にも良い影響を与えます。さらに、半年に一度は査定・昇給の機会があり、目標設定・振り返りを目的とした評価面談などを複数回実施しています。チャンスがあれば年齢もキャリアも関係なく上に上がれる。日々の成果が従業員に還元されるよう、積極的な給与の上昇に努めています。
刀禰氏前回、産業医の三宅先生と対談をした際にも、「新型コロナウィルスによる大きな環境変化により、企業が従業員の健康や幸福に対してどれだけ意識が高く、大切にしてくれているのかが明らかになった」という話題が出ました。個性を尊重しながら、従業員のやる気を応援していく御社の姿勢は、まさに理想的ですね。
丹下氏私は、会社はすべての人を幸せにするために存在していると考えています。従業員がそれぞれの能力を発揮して、給料に反映できる道を広げるための教育を行うことも存在意義の一つです。
菅原氏こういった社長の想いを従業員に伝えて理解を深めてもらうために社内の情報発信にも力を入れています。週に一回、従業員に社長や役員のラフなトークを届ける社内ラジオのようなコンテンツや、日々の会議などでのふとした社長の発言をつぶやきのようにまとめてオウンドメディアで発信したり、中途入社者を対象に月初にオンラインでランチ会を行ったりもしています。これだけ会社の規模が大きくなると、社長と実際に会うことはなかなかありませんので、社長が常日頃考えていることをできるだけ早く様々な手法で発信しているのです。

従業員それぞれの
市場価値を正確に判断することが
大切だと考えています
菅原氏
従業員との相互理解を深める
「ヒトログ」
刀禰氏近年、「人的資本経営」という考え方が関心を集めています。人を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、長期的な企業価値向上の実現を目指すことですが、御社の取り組みはそれを先取りしたものだと感じます。なぜそうした取り組みを進めているのか、丹下さんのお考えを聞かせてください。
丹下氏僕がなぜ人的資本経営を進めているかといえば、基本は「嫌われたくないから」です。マネジメント層にも「部下から嫌われないように」と言っています。そのためには、「どうすれば従業員に楽しく仕事をしてもらえるのか」を考えるということに尽きるでしょう。例えば、理系出身で真面目にものづくりだけに取り組んできた人材には、電車通勤や顧客との商談がストレスになってしまうこともあります。そのような人材の適性を見極めて心に負担を与えないようにする。それが嫌われないということだと思っています。そのため、会社と従業員の相互理解を深めるツールとして、「ヒトログ」というタレントマネジメントシステムを独自で開発して活用しています。
刀禰氏従業員の様々な情報がここに集約されているわけですね。従業員の個人的な情報までも把握することで、さらにフェアな評価も可能になるのだと思います。

採用から教育、やりがいまで、
働きたくなる環境が整えられていますね
刀禰氏
菅原氏例えば、仕事に対するスタンスの変化やメンタル状態、趣味などのプライベートな趣向などがわかります。自己申告制ですから、もちろん全てを開示する必要はありませんが、より多くの情報を開示してくれた方が会社としてきめ細かくサポートしやすくなります。「ヒトログ」を活用することで、より従業員の能力を生かした職場に配置することもできますので、非常に役立っています。
丹下氏SHIFTでは会社のサポートももちろんですが、従業員の横のつながりも大切にしています。部活動や、従業員同士のコミュニケーションを目的としたリアルやオンラインのコンテンツ、忘年会、お客様感謝祭のようなイベントも盛んです。福利厚生では、従業員が資産運用や納税にお得に楽しく取り組めるよう、万全なサポート体制や、独自のふるさと納税サービスを開発したりと、業務外でも、誰にでも人生の中で起こり得る、日常的に面倒くさいと感じることや、様々な不安の解決まで会社が支援しています。健康管理面でも、年に一度の健康診断はもちろん、メンタルヘルスチェックも半年に一度実施してバランスの取れた心理状態を保てるよう支援しています。ホットラインも多数用意していますので、社内の安心・安全も保たれていると思います。
刀禰氏昔ながらの「日本の本当に良い会社」を現代に合わせて実現しているイメージです。会社のファンを増やす、ということは良い採用を実現し、人的資本を強化していくためにも重要だと思います。
丹下氏従業員一人ひとりが持っている強みを生かして仕事をしてほしいと願っています。会社はその人の価値をフェアに判断したい。それは当たり前のことではないでしょうか。グループ会社も増えているなか、SHIFTに関わってくれる人たちをどれだけ幸せにしてあげられるか、それが今後の課題です。